ワッツーシゾンビに捧ぐ。

ワッツーシゾンビのドラムのメグル君が脱退しました。


昨年、彼らがアルバム「WE ARE THE WORLD!!!」を発表した時、僕は人生初のライナーノーツを書かせてもらいました。


そのアルバムは宝物です。


何故か思い出して読んでました。


何故かアップしてみました…、3人のワッツーシゾンビを忘れたくないからだと思います。


これからの3人の活躍も心から祈っています。




ワッツーシゾンビは、メタル、パンク、ハードコアやボアダムスなどのスカムシーンが好きだったジャンク思想の谷村じゅげむと、60年代のマニアックなレコードコレクターでガレージも好きだった安里アンリにより、’99年に活動開始された。’01年にはドラマーの三宅メグルが加入。ちなみに彼は、今やライブバンドでは当たり前の光景となったドラムセットをフロアに降ろし演奏する斬新なステージングのパイオニアでもある。’02年に自主制作CDは出したものの、主だったリリースは’05年までなかった。メグルは、当時を「東京でライブやったり、ツアーやったり、完全燃焼できとった。東京の反応も、大阪より良かった」と振り返る。
「嬉しかった。憧れやったから」(アンリ)という、ゆらゆら帝国も輩出したキャプテントリップレコードから、’05年アルバム「ブッダ マスク エクスペリエンス」をリリース。東名阪ツアーはもちろん、FUJI ROCK FESTIVAL05にも出演し、アメリカツアーまで行なった。まさに絶好調な彼ら。この頃の関西といえば、どこの誰が名付けたか「関西ゼロ世代」とい言葉が蔓延していた時代。難波ベアーズや新世界ブリッジを拠点にしていた、あふりらんぽオシリペンペンズ、ZUINOSHIN、ワッツーシなどを指した言葉であった。その時期、あふりらんぽQuick Japanで追いかけていた僕は、この界隈で何かが起きようとしていた事に胸をときめかしていた。ただ、「関西ゼロ世代」とメディアの勝手な思いつきの言葉で、ひと括りにされる事に抵抗があったのも事実。関西のライブハウスでアングラな匂いがするバンドが衝動的に暴れているという粗雑なだけのイメージで捉えられ、一過性の話題で終わらされる事を危惧していた。
 「あふりが出てきてから、『関西ゼロ世代』言われるようになった。盛り上がって、おもろかった」(メグル)。「あふり、ペンペンズ、ZUINOSHINは同志やと思ってたけど、『関西ゼロ世代』という言葉は別に誰も何とも思ってへんかった」(アンリ)。「あの時期は良かったとは思うけど、何か好きな事を好きなようにしかやらへんイメージを持たれていたんちゃうかな。あふりもメジャーで1枚だけ出して結婚や出産があったし、ZUINOSHINも活動が止まった。ウチとペンペンズがアルバムを出していたら、もしかしたら状況は変わっていたんかもな」(谷村じゅげむ、以下じゅげむ)。「今、『関西ゼロ世代』って、どないなってんの!? あっ、今は『ポスト関西ゼロ世代』っていうのがあって、ウチら当てはまるらしい (笑)」(アンリ)。
 「1年間は、勢いだけでやっていけた」(じゅげむ)と言うように、世間の「関西ゼロ世代」への騒ぎが落ち着いた時、ちょうど彼らも偶然にも模索をし始めた時期であった。「次、動き出すまで長かったから、ホンマ辛かった。’06年やったと思うけど、谷村がプチンとなって『別のバンド組むわ…』言うて、手ブルブル震わせていたんを覚えてるわ。あん時は、バンドが壊れると初めて思った。ほしたら、メグルが『音楽しよ!』って言ってきて、『それ、何じゃ!?』ってなった」(アンリ)。「普通の事を言っただけやってんけどな。世界一のバンドになりたいだけやから」(メグル)。
 そのメグルの一言で、再びワッツーシは蘇える。前作から3年という沈黙を破り、’08年アルバム「ブッダ マスク レボリューション」を発表。M1「わたしKeep’onええ感じ」の初っぱな、じゅげむが「朝 目が覚めたらやるだけ 朝 目が覚めたらやるだけ 革命運動やるだけ やるだけやったら寝るだけ だって僕らはロックンローラー 夢見るボーイじゃいられない!!」と叫ぶ。初めて聴いた時、満面の笑みでガッツポーズをしてしまった。彼らは、アングラやサブカルに甘え、村社会でぬくぬくと暮らす未来に、きっぱりと「NO!」を叩きつけた。世界中にええ感じのパッションを届けたいという決意表明になった会心のロックンロールアルバムとなった。
 今春、彼らは以前から親交があった曽我部恵一とレコーディングを開始し、曽我部がレーベルオーナーを務めるROSE RECORDSから5月にミニアルバム「ZOMBIE FROM EARTH」を発表する。「キャプテントリップで2枚出して、次は違うとこから出したかった。『ブッダ マスク レボリューション』が結果出えへんかったのが、悔しかった。もっともっと、売りたかった」(メグル)。より結果を求めて辿り着いた新天地での1枚目は、あらかじめ決められた恋人たち、ミドリの鍵盤であるハジメあふりらんぽのピカ率いるモンモン♀トゥナイトとのコラボレーション曲も含まれ、バラエティ豊かで企画盤の色合いが強い作品となった。9月にアルバム発表という計画も既に組まれていたが、正直この時点で僕には方向性が予測できなかった。ジャンクやガレージをルーツにライブでの圧倒感をそのまま詰め込み、意識革命をも成し遂げた傑作「ブッダ マスク レボリューション」と同じ事をしても違うのではないかとも考えていた。   
「曽我部さんは最初、3人だけでゴリゴリしたアルバムを出そうか言うてて。でも、『ZOMBIE FROM EARTH』が出来た時、『より多くの人に聴いてもらうなら、あらかじめの池永(正二)君がプロデュースすると広がるよね』という話になった」(アンリ)。エレクトロダブ要素を持つインストユニットである”あらかじめ”の池永がプロデュースを務めて完成したアルバム「WE ARE THE WORLD!!!」。ロックンロールアルバムである事に変わりはないが、これまでにはなかった音の広がりの幅を持つ作品となった。確かに「ZOMBIE FROM EARTH」の中でも、”あらかじめ”とコラボレーションした楽曲は異彩を放っている。池永の浮遊感あるピアニカが鳴り響き、ダブ処理された音は、ワッツーシが元々持っていたゆらゆら帝国をも彷彿とさせるサイケデリックな部分をより際立たしていた。’02年の自主制作CDにも収録されていたM6「ハッパのラッパ」は、そのサイケデリックさが現れた最たるもの。そして、アルバムを通して何よりも大きな変化を感じたのがアンリの声である。独特の関西訛りが気持ち良く破壊力もあるじゅげむの声と比べると、どこか細い声のイメージがあった彼。が、今作では、その声を存分に活かしメロディーに沿った美しくも儚い歌を聴かせてくれる。中盤で聴こえてくるプログラミング音が心地よいM5「あァ、眩しい世界」とエレキギターの優しい音色が染み渡るスローバラードであるラストナンバー「嘘」は、思わずアンリの声に聴き惚れてしまう。また、メタル的リフで展開していくM1「バカとアホ〜BACK TO A HOME〜」でのじゅげむとアンリの声のコントラストは、ワッツーシがツインボーカルである必要性を強く提示できている。曽我部や彼らの間でも話題に出たらしいが、浮遊感とダンサンブルな感覚を併せ持ったアルバム「WE ARE THE WORLD!!!」は、歴史的名盤であるPrimal Scream「スクリーマデリカ」がふと頭をよぎる最高傑作に仕上がった。
「前回の『ブッダ マスク レボリューション』は身を削って爆発をして、今回はその爆発の内容説明になってる。自己満足で好きな事しかやらへんという『関西ゼロ世代』で付いたアングラのイメージを、とにかく早く変えたかった。今まで、そこに足を引っ張られとったから。ホンマにおもろいんやったら、多くの人の前でやったらええやんと思ってるし、僕らはホンマに多くの人の前でやりたい。今回、何よりも自信あんのは、池永さんというバンドと関係のない他人の意見を大きく受け入れられたこと。それでも、最終的には僕ららしいに音になってる事を誇りに思う」(じゅげむ)。  
前作で意識を、今作で音を革命する事に成功した彼ら。活動開始10年にして真のファーストアルバムを完成させたワッツーシゾンビの革命運動は、まだ始まったばかりだ。(鈴木淳史)