目のまえのつづき。

http://www.ohashijin.com/pages/ohashi05books01_menomaePanf.html


ちょうど10年前に発表された写真家・大橋仁氏の写真集「目のまえのつづき」が好きだ。


好きだ…というか当時大学4回生の僕は、その壮絶さに度肝を抜かれ、何かもう訳わからなくなった事だけは鮮明に覚えている。


父親の自殺未遂、恋人とのSEX…、自身の全てが、ただひたすら描かれている。


目のまえに山があるから登る、その感覚と同じなんだろう。


だから露悪趣味とは思わないし、誠実な日記だと思った。


表現として人前に出すだけの魅力的な被写体なわけだし、とりあえず全てを見せ付けられた気がした。


元々、発信側の顔が見えている物が好きなのもあるかも知れない。


だから、インタビューであれレビューであれ、自分自身とリンクする思いがあれば、僕も部分的に自分自身の事を書くことがある。


脱線しているとか、ネタにしているとか思われることもあるが、素直に感じたことを伝えるための術でしかない。


自殺未遂をして血を流す父親にひたすらシャッターを押す大橋氏、やはり僕はこれぞプロだと思う。


5年前、オカン玲子(61、当時56)が心臓発作で倒れたとき、真っ先に思い出したのが大橋氏。


落ち着きを取り戻したオカンの横で失禁した様などを、すぐに文章にしていった。


別に大橋氏のように作品になるわけでもないが、この興奮している自分の非日常な日常をおさえねばと、必死で書いた。


当時はブログなぞやっているわけもなく、とりあえず数人の友人たちに送った。


ひとりを除いては、みんな困っていた。


そりゃそうだ自由閲覧ではなく、直接送りつけられたわけだから、本当に馬鹿な話だ。


今朝8時、廊下から「淳史…、淳史…」と消え入るような声が部屋に聞こえてきた。


僕は先輩の送別会で朝6時に帰ってきたところ、念のため10時に起こしてもらうことを前夜約束していたので、もうそんな時間かと酷い頭痛と酷い胸焼けながら廊下へ出る。


リビングの入り口のところで、玲子が倒れていた。


心臓発作だ、とりあえず近寄りさするが、痙攣しているし、完全に表情も危ない。


水を飲ませ、薬を飲ませるが、再度発作が起きる、これは、もしかするぞ…と思い12時半からのインタビューを断る電話を入れなきゃや、でも夕方には原稿を書かないとや、色々思いながら決意をして、119へ電話。


「消防救急です」と言われ、混乱した僕は火事のとこへ電話したと思い、「間違いました。すみません。救急車を呼びたかったんです!」と話す。


「間違えてないですよ!こちらであってます、どうしました!?」と聞かれるが、玲子が「呼ばなくていい…、呼ばなくていい…」と必死で訴えてくる。


「本人がいいと言っているので、大丈夫です」と話すが、もちろん電話先には不安がられる。


受話器を置き、再度背中をさすり、頭を何とか持ち上げ枕を入れる。


少しづつ表情も戻るが、5年前より衰えているのが嫌というほどわかるし、本当に少しでも本人が気を緩めたら発作に持っていかれるというのもわかっただけに、怖かった。


ホットカーペットに移動させ、2時間ほど添い寝しながら様子をみる。


どうやら治まったようなので、12時半のインタビューへ出かけることに。


オカンのことをよく知る後輩ひとりにだけ、連絡をしとく。


大橋氏の写真集「目のまえのつづき」を思い出す。


もうつづかないかも知れない「目のまえのつづき」もあることに気付かされる。


5年前は、何だかんだ「目のまえのつづき」があった、玲子の。


でも、もう自分の「目のまえのつづき」しか残されない日も目のまえにきているんだなと思うと悲しくなったし、諦めに近いものがあった。


家を出る直前、玲子に呼び止められる。


また、何か起きる前兆なのかと緊張する僕、しゃがんで玲子の視線に合わせる。


玲子は、小さな小さな声で呟いた。


「Greeeeeenn(表記合ってるかもわからないし、今は知る気もないけど)の新しいビデオ良くないね…」


「何で今のタイミングやねん!」などと鮮やかにツッコむ元気も、もはやなく「そうだね」と呆れて返すと、さっきまでの表情が嘘かのようにほくそ笑んでいた。


とりあえず、もう少し脛を齧らせてもらわないと困るので、温かい春になったら玲子が行きたいライブに何かしら連れて行ってあげようかなと思う。


さて、目のまえの原稿のつづきでもやりますか。


http://www.youtube.com/watch?v=zhxPp-0NCnE →玲子が言ってたGreeeeeennnのビデオ