フラワーカンパニーズの1年〜日本武道館←→和歌山GATE。

12月7日、フラワーカンパニーズのスタッフから以下のメールが届いた。


『12/18(日)はお忙しいでしょうか? 47都道府県ワンマンツアーのファイナルが和歌山GATEであるのですが、ファイナル的(?)な企画を考えており、もしご都合あうようだったら、見届け人(笑)をしていただけないかなと思っています』


さっぱり意味が分からないメールなので、すぐに問い合わせると要は去年12月19日のフラカン日本武道館から、ちょうど1年経った12月18日和歌山GATEで武道館と同じセットリストでライブを行なうという事だった。今回のワンマンツアー『夢のおかわり2016』自体が武道館に来場した全国各地の人々、普段から応援してくれる全国各地の人々にお礼を伝えにいくというシンプルなもの。ライブハウスを主戦場とする彼ららしい趣旨である。集大成となるツアーファイナルにふさわしい内容だが、事前にメディア媒体へのニュース出しはおろかHP告知すらしない。僕への依頼である見届け人も、簡単に言うとライブレポートなのだが、そちらもメディア媒体へニュース出しをするわけでもなく、HP掲載すらない。「鈴木君のブログにでもあげてください!」…、それで本当に良いのと未だに想っているが、あくまでツアーの最終日にしか過ぎず、特別感を出さないというのも彼ららしい。ただ、流石にライブが始まる時には、その旨を発表するはずだと思っていた。で、『結果は、こうでしたよ!』と胸を張って書きたいところだが、そういうわけにもいかない。


当日開演は17時半だった為、17時JR和歌山駅着を目安にして、時間に余裕があれば市バスで向かおうくらいに考えていた。JR大阪駅15時発の紀州路快速で16時53分に直通で到着のはずだったが、気が付くと僕はJR関空駅にいた。JR日根野駅関空駅と和歌山駅に車両が切り離される事を知らなかったのだ。慌てて、日根野駅に戻り、再度紀州路快速に乗り、JR和歌山駅に向かい、タクシーを走らせる。時は既に遅し…、和歌山GATE到着は17時50分…。見事に遅刻で、4曲目『永遠の田舎者』の終盤であった。完璧にやっちまったである…。つまり、肝心のオープニングでの趣旨説明を聴き逃していたら、何の意味もないと落ち込んでいたのだが、最初から観ていた関係者に確認すると、何も説明されなかったという。僕が間に合った4曲目からラスト27曲目『サヨナラBABY』までも、一切説明されていない。ライブが終わった瞬間に僕が趣旨説明と共に感想をTwitterで呟き、フラカンアカウントによるRTがあり、それがいわゆる公式発表になった。鈴木圭介とグレートマエカワが後日ブログで内容に触れるまでは、公式発表は何もない。『彼ららしい』という言葉を既に何回使っているかわからないが、そうとしか言いようがない。粋過ぎるであろう。


個人的に武道館を強く想い出したのは、11曲目『夢の列車』。インディーズ時代からの楽曲であり、グレートのボーカルパートや圭介のハープが響き渡る渋いナンバーなのだが、何と言っても竹安堅一のロングタイムなギターソロが圧巻。武道館で痺れた象徴的な構成がまんま再現された事で、改めて武道館セットリストなんだと気が引き締まった。16曲目『チェスト』を前に、何故ツアーファイナルの場所が和歌山GATEになったかが、グレートから説明される。隠された真意が遂に明かされた。


『去年1年武道館の為にやって、Twitterエゴサーチをよくしていたら、和歌山GATEの人が一番「フラカンの武道館に行こう!」みたいな応援のつぶやきが多かった。もちろんタイム設定みたいなものもあるんだろうけど、それでも、そこまでしてでもつぶやいてくれたのが嬉しかったから、実家でもないし、親戚もいないけど、ここ和歌山GATEをツアーファイナルにしようと想った。まぁ、全国のライブハウスは、どこも実家みたいなもんだしな』


そりゃ、全国のライブハウスから愛されるよ。そりゃ、全国のイベンターから愛されるよ。何しろ、全国のファンから愛されるよって想った。なんて単純明快で素敵な理由なんだろうって。年間約100本のライブを全国各地で行なう彼ら。この日の和歌山GATEも約250人くらいの観客で売り切れであった。47都道府県×各地200人=武道館9000人売り切れなんていう計算も思わずしてしまったくらい…、フラカンの武道館は全国各地の人に支えられていたのだ。メンバーチェンジ無し活動休止無し、でもヒット曲無しという結成27年のバンド。日常の頑張りが奇跡を起こした凄い時間だったんだなと、ちょうど1年前の武道館を想い出さざるおえなかった。


本編全19曲が終わり、アンコール1ブロック目へ。当たり前だが、武道館セットリストと全く同じ。21曲目『ロックンロール』前の圭介のMCが印象的だった。序盤のMCでは『やっとツアーが終わる! せいせいした! 一個のツアーで47都道府県をワンマンで回るのは、武道館よりキツい! 二度としない! それもファイナルが縁もゆかりもなくて、親戚もいない和歌山なんて!!』と照れ隠しもあり毒づいていて爆笑したが、ここでは本音を話してくれた。


『やり直せる。何回でもやり直せる。武道館は声がガラガラだった。だから、武道館のDVDは1回しか観ていない。でも、このツアーが終わったら、ようやく楽しんで観れそうな気がする』


晴れの舞台である武道館で自分が想うような声が出なかった事は、悔しくて堪らなかっただろう。そりゃ、武道館ライブは素晴らしかったし、声が出にくいというのも年中ライブをやっているバンドらしい生々しさで感動したが、そんな事は本人にとっては関係ない事。武道館での大きな忘れ物を1年かけて取り戻しに行く…、この47都道府県のツアーがいかにフラカンにとって重要だったかを思い知る一言だった。ロックンロールはずっと続いていく。


アンコール2ブロック目ではグレートがクリスマスツリーをかたどったオーバーオールで登場したり、24曲目『NUDE CORE ROCK'N’ROLL』では武道館唯一の特別な演出と言っても過言ではない特効のテープがフロアに飛ばされたりと、忠実に武道館が再現される事にニヤニヤしてしまうが、一刻と終わりは迫ってきている。アンコール3ブロック目のラストナンバー27曲目『サヨナラBABY』を前に、圭介が最後の語りかけを。


『この1年ありがとうございました。恐らく、この中で一番幸せなのは俺だよ。不幸キャラとか負け犬キャラとか言われるけど、俺は1回も不幸になんかなった事ないし、1回も負けた事ないから! 人生が楽しくて仕方ないよ。悲しい時も来るかもしれないけど、バンド辞めようなんて1回も思わないから!』


14曲目『深夜高速』が歌い終わった時も、こんな事を言っていた。


『ずいぶん前に作った曲なんだけど、俺たち、しつこいなぁ〜。全く辞める気ないもん。バンド以外する気ないもん』


『生きててよかった そんな夜を探してる 生きててよかった そんな夜はどこだ』なんて歌うもんだから、まだ幸せじゃないのかなとか、まだ勝っていないのかななんて勝手に思われるんだろう。でも、ただ単にもっと幸せになるために、もっと勝つために、フラカンは生きているだけなんだろう。これは学生時代から約20年を彼らを聴き続ける僕にとっても、新しい発見であった。誇らしく想えたし、頼もしく想えた。消えぞこないには、消えないだけの理由がある。限りなくネガティブに近いポジティブなんだけど、当の本人たちは楽しんでいるのだ。苦労なんて言葉は似あわない、だって好きな事を一生やり続けているのだから。


何度も書くが、去年12月19日の武道館と全く同じセットリストが今年12月18日の和歌山GATEで再現されたのである。なぜフラカンの武道館に感動したかと言うと、必要以上に特別な演出などをせず、いつものライブハウスまんまのシンプルなライブだったからだ。この日、いつものライブハウスである和歌山GATEで武道館セットリストが再現された事で、武道館がいつも通りのライブであった確実な答え合わせがされたように想う。武道館も和歌山GATEも地続きであったのだ。そして、どちらの3時間も一瞬たりとも長いとは思わなかった。こうして、47全都道府県を回る『夢のおかわりツアー2016』は、無事に終了した。


打ち上げにも参加させて貰ったのだが、盛大なビンゴ大会も行なわれた。普段、喉の事を考えて、ほとんど打ち上げに参加しない圭介が『毎回、こんな事をしているの?!』なんて興奮していたが、そんな事がある訳ない…。でも、武道館の打ち上げでもしなかったフラカン史上初のビンゴ大会を思わずするくらい達成感が強いツアーファイナルだったのだろう。提供品も由利徹のレコードや特撮の企画本や熟女エロ本や地方のお土産用手ぬぐいなど異様に庶民的で、その感じも誠にフラカンらしかった(失礼)。ちなみに僕が提供した村西とおる監督最新自伝『全裸監督』は、見事に圭介に当たり、大喜びしていたのは完全なる余談。


てなわけで、僕が電車乗継を大失敗して遅刻した以外は本当に素晴らしい夜であった。おあとがよろしいようで。