冒険は続くよ、どこまでも

『冒険は続くよ、どこまでも』


どうも、こんばんは、ライターの鈴木淳史です。何を、こんなに改まって挨拶したかというと今から読んで頂くライブレポートは7ヶ月も前のものだからです。まぁ、要は、そんな昔のものを今更アップするわけだから、ちょっと気が引けているというか…。でも、アップしないといけない理由があるのです。


1月27日(金)に梅田Shangri-Laで開催される『魔法少女になり隊 ワンマンツアー2017〜メロディア王国にさよならバイバイ ワタシはみんなと旅に出る〜』に足を運んで欲しいのです。


7ヶ月にも書いていますが、このバンドはフェスやイベントでも充分に爪痕を残せるバンドなのですが、何よりもワンマンを観て頂きたい。


若くて勢いだけでバズらせるバンドではなく、しっかりとコンセプトが物語が美意識がユーモアが構築されているので、長い尺で彼女ら彼らしか出ないワンマンという世界観の中で堪能して頂きたいのです。


去年の初夏、僕は二カ所でワンマンを観ました。その『2016Summer』の記録です、下記は。これで予習復習して参考にして、1月27日(金)に梅田Shangri-Laへお越しください。


いきなりワンマンなんてハードルが高いのはわかっております。だからこそ、このガイドラインを読んで頂けたら安心できるはずです。


金曜夜、梅田Shangri-Laでお逢いしましょう。


6月24日心斎橋BRONZEで開幕した『魔法少女になり隊 ワンマンツアー 2016〜わたし、魔法少女になりたい!〜』。これまで、自分が住む関西のイベントで何度か観る機会はあり、興味は持っていた。ただ、自分の中でまだ魔法少女になり隊の魅力を整理しきれていなかったのも事実。だが、この日はワンマンという事もあり、武器のひとつである映像が後方の大きなビジョンに堂々と映し出されていたのも大きかった。


gari(VJ)が制作するRPG風の映像で、火寺バジル(Vo)が魔女に呪いをかけられて喋られなくなった事が説明される。そして、彼女はその呪いを解くために必要な“ハピネス”を集めるため、“歌”という魔法を使いながら、仲間のgari、ウイ・ビトン(G, Cho)、明治(G)と共に冒険をしている事も説明される。バジルはバッテン印のマスク姿であり、歌う時には外す。RPGやアニメの要素が入っている集団だが、そのようなルーツが全く無い僕の様な人間でも理解できる。いや、理解できるように丁寧に導いてくれるというのが正しいだろう。


サウンドはゴリゴリのシャウトやデスヴォイスが入り、ラウド色やメタル色も強く、こちらも個人的にはルーツとして通っていない。しかし、その押し寄せてくるサウンドに思わず呑みこまれた。破壊力が半端ではなく、凄い…。初のワンマンツアー、それも初日なので心身共に仕上がっている。そして何よりも、キャラが際立っている。とにかく、バジルはポップでキュート。強烈なシャウトやデスヴォイスをぶちかますgariもMCになると、甲高い声で優しく温かく観客に接して、どこか可愛げすら感じる。しっかりしたキャラコンセプトが全体的にあるものの嫌味は無く、サウンドもMCも観客を必要以上に突き放す事はない。


要はバズらせるだけで先が見えない…、今の一瞬だけが暴れて騒げて笑えて楽しいという単純明快な集団ではない。『魔法少女になり隊』という集団が続く限り、ずっと魅力を届けて、より拓けていく可能性を感じさせてくれる。馬鹿騒ぎだけではない胸騒ぎ…、これが心斎橋初日に全13曲を体感しての感想だ。38歳という四十路も目前な中、自分と同じルーツが無いタイプの若手バンドには恥ずかしながら、どうしても共感できなかった。でも、この日の彼女彼らには、何だか自分でも、よくわからない涙を流してしまった。自分のルーツには全く無いにも関わらず、飛び抜けた新しい表現を持つ若き才能に出逢えて、尋常じゃなく心を奪われたからだろう。


どうしても冒険の続きが観たくて、初ワンマンツアーファイナルの7月1日原宿Astro Hallへ関西から向かった。初日は観賞のみだったが、このファイナルはライブレポートも担当させてもらう事に。観客が全て入場し終えた午後7時半フロアに入ると、心斎橋BRONZEより約3倍のキャパがある原宿Astro Hallは足の踏み場もないくらいに満杯になっていた。事前に重大発表ありと告知されていた事もあり、異様な熱気に包まれている。1曲目『BA・BA・BA ばけ〜しょん』からgariが「東京!」と煽るが、何でもない煽りなのに凄く気になってしまう。外タレが来日ライブで煽る感覚に似てるというか…。先述したが、やはり可愛げがあるのだ。ちょっとした事でも興味を惹きつける能力もあるのだ。この日、何気に出た「トウ!」と言葉も、そうであった。彼が「トウ!」と言っただけで、観客全員が反応する。何の意味も無い言葉だが、何も狙い過ぎておらず、心から出た言葉だからこそ響くのだ。盛り上げるために話題性を狙い過ぎた、その場しのぎの表現は必ず飽きられる。1週間で東名阪3本のコンパクトツアーなので、6月26日の名古屋APOLLO BASEを観ていないだけだが、日々吸収して成長している事が伝わった。改めて、LIVEは生き物だと気付かされる。


序盤からダイバーも続出して、6曲目『MEGA DASH』ではバジルがマスクと同じ白地に赤いバッテンの旗を振りまくる。観客の興奮度も絶頂に達しかけているのがわかった。フロアにはサークルモッシュも起きるが、魔法少女になり隊のLIVEでは殺伐さを一切感じない。それは観客を扇動する彼女彼らの上手さであり、そこにも丁寧な優しさや温かさを感じる。この日、特に印象的だったのはMCでウイ・ビトンが「後ろの人も見えるようにしてあげて欲しい!」と客席前方の人に問い掛けたり、明治が「怪我だけはしないように!」と呼び掛けた事。フロントマンふたりだけでなく、バックのふたりも役割を担い、支え合っている美しさには何とも言えないものがあった。キャパの違いがあるとはいえ、初日大阪には無かったMCである。単純に感心してしまった。


9曲目『ヒメサマスピリッツ』は和楽器をサンプリングしたサウンドであり、バジルは、これまた赤いバッテンがデザインされた白い扇子を振りまくる。確実にラストへと向かう中、gariが「最高の景色を続けようぜ!」と言い放つ。「最高の景色を観たい!」と若いバンドマンが言う度に、あくまで個人的にだが、いつも違和感しか残らなかった。観る側からしたら、それは関係ない事であり、どちらかと言うと、こちら側が「最高の景色を観たい!」。演者は観客に最高の景色を見せる義務があり、観客は最高の景色を観る権利がある。その成立した関係性を理解している事が、gari の言葉からは伝わってきた。演者と観客が素晴らしい関係を一緒に続けていく事さえできれば、魔法少女になり隊の冒険が終わる事はない。


カバー2曲を含む11曲を終えたところで、ビジョンに 「重大発表 2016年9月21日メジャーデビュー決定」の文字が激しい効果音と共に映し出された。会場は、「おめでとー!!」という祝福の大歓声に包まれる。その反応を受けて、gariは、「ツアーファイナルという笑顔あふれる場所で、メジャーデビューを発表できて本当に嬉しいです! 遂にですよね!? これからも火寺バジルの呪いをとくために冒険を続けます。メジャーという新たなステージでも、みんなついてきてね〜!!」と喜びを爆発させる。その後、gariが「早く呪いをといて、MCをしようね!」とバジルに喋りかけ、バッテン印のマスク姿でバジルは嬉しそうに頷く。このシーンが、この日、一番感動してしまった。今回のメジャーデビュー発表を皮切りに、より大きなステージを今後経験していくだろう。が、観客へはもちろん、そして上記のシーンの様にメンバーにも心遣い思い遣りを忘れない姿勢があれば、何も心配する事は無いと言い切れる。


メジャーデビュー曲『KI-RA-RI』を披露した後、「魔法少女になりたい」という歌詞が深く心に残る『冒険の書1』を全力で演奏。こうして、初ワンマンツアーは幕を閉じた。アンコール無し全13曲本編というスタイルも誠に潔い。メジャーデビュー発表もあり、初日と比べて明らかに時間は長いはずなのに、実際は短く感じた。それだけ構成をタイトに見せれたという事からも、改めて今回のツアーでの成長を感じる。また本人たちもやりきった自信があるだろう。サポートベースのわくわくさんも含め、メンバー全員が舞台上でも楽屋裏でも本当に良い笑顔をしていた。


魔法少女になり隊の未来に対して、「ひょっとしたら、ひょっとするかも…」と勝手な期待をせざるおえない…。海外であろうと、どこであろうと、是が非でも僕らを観た事もない世界へ連れて行って欲しい。初ワンマンツアーという冒険の始まりに立ち会えた事を誇りに想う。


鈴木淳史(ライター/ABCラジオ『よなよな…なにわ筋カルチャーBOYZ』パーソナリティー)